2009年にデビューした相鉄の11000系。E233系をベースに設計されており、製造当初は2015年に開業予定であったJR直通線への乗り入れを視野に入れた電車でした。
ですが、工事の遅れによって2019年11月に開業したJR直通線では、11000系でなくその次の新型車両である12000系が充当されています。
なぜ、JR東日本E233系とほぼ共通の設計である11000系が、JR線へ乗り入れることはなかったのでしょうか?
直通を視野に設計された11000系
相鉄11000系は、2009年にデビューした通勤型電車です。2013年までに5編成が製造されています。
当時のJR東日本の新型車両、E233系0番台(中央快速線)、1000番台(京浜東北線)をベースに設計されており、共通設計にすることで導入コストと維持コストの削減を狙っています。
この11000系ですが、当時計画が進んでいた神奈川東部方面線で、JRへの直通電車として使うことを前提に製造されていましたが、
多くの方がご存じの通り、JR直通用電車は、後年に登場する12000系がその役割を担っています。
なぜ11000系は直通することが出来なかったのでしょうか?
なぜ11000系はJR直通電車に使うことが出来なかったのか
この11000系ですが、直通運転開始前年の2018年5月時点では、JRへの乗り入れを表明していました。
その後、2019年4月に発売された鉄道ファン誌で、JR直通には対応させない旨が記述されており、
同年デビューした新型車両12000系が、その役割を担っています。
電動車の向きの違い
よく言われていますが、編成に向きが逆だからというのが、よく有力な説として提唱されています。
電動車ユニットの配置の向きが異なると言ったほうが正確かもです。
というのも電動車ユニットの連結位置は、11000系も12000系もE233-7000系も、全て2-3・4‐5・8‐9号車に連結されているからです。
もしも編成の向きが逆という説明であれば、11000系と12000系・E233-7000系で真ん中の電動車の連結位置が異なることになります。
実はE233系ベースの11000系と12000系は、ベースとなった番台が異なっています。
11000系は編成構成が、2006年の中央快速線E233系0番台T編成に合わせて設計されており、
・コンプレッサー搭載車は制御車(Tc)もしくは付随車(T)
・予備パンタグラフ搭載車は、東京寄り電動車ユニットの東京寄り【わかりやすく言うと2号車】
に配置されており、11000系も全く同じ配置となっています。
一方、12000系と、E233系7000番台は
・コンプレッサー搭載車は電動車ユニットのM’車(横浜・大宮・川越方)
・予備パンタグラフ搭載車は、真ん中の電動車ユニットの新木場・海老名寄り【わかりやすく言うと5号車】
に配置されています。
11000系は2008年にデビュー、まだ埼京線は205系が走っていたころで、
E233系7000番台は、2013年にデビュー、5年に開きがあります。
このデビュー時期の違いから、機器配置が異なるのは致し方ありません。
ただ、機器配置が違うからと言うのは、多くの車両が行き交うJR線では説得力が薄いです。
そもそも、埼京線で走っていた205系は、6扉車連結編成と全車4扉編成で電動車の連結位置が異なっていたことと、
現在も走っている東京臨海高速鉄道70-000形も、E233系とは電動車の配置が異なっています。
12000系は直通運転開始直前にデビューで、乗入先系統が決まっていて、E233系7000番台に機器を合わせられるから、機器配置を合わせたと言った方がいいでしょう。
なので、「編成の向きが逆だから」というのは、単純明快で分かりやすくてインパクトがあるから広まったのだと考えます。
もちろん完全に否定を出来るわけではなく、直通できなかった原因の一部である可能性は多少あります。
埼京線保安装置 ATACS取付といった改造コスト
埼京線は2017年11月4日より、次世代列車制御「ATACS」が供用開始されました。
このATACSは、無線を通じて、前方列車との位置関係を把握する事により速度を制御する、次世代の保安システムです。
このATACSの導入により、前後の列車との間隔を詰めた、スムーズな運転ができるようになったり、軌道回路等の削減によって、軌道設備の維持費削減が可能となります。
そのため、E233系7000番台と東京臨海高速鉄道70-000形は、2015年からATACSの取り付け工事が行われました。
そして、ATACSの取り付け工事は、かなりの改造コストがかかります。
また、取り付けのために、JR東日本や車両製造メーカー等の工場へ入場しなければならず、
乗入前の状態であれば、甲種輸送等にて入出場をしなければいけないため、さらに費用と時間が嵩むことが容易に想像ができます。
そこで、既存車両の置き換えも兼ねて、新型車両12000系を、JR直通線の運行頻度に見合った本数である6編成導入することによって、長い目で見た場合のコストを下げているものだと考えられるでしょう。
相鉄にとって使う機会がほとんど無い、ATACSを搭載している車両を、不必要に導入するかと言われたら、納得がいくかと思います。
ATACS搭載車両を、できる限り少ない労力で必要最低限度の導入に留めるという観点では、12000系のみ直通させる判断は正しかったと言えるのではないでしょうか?
デザインアッププロジェクト YOKOHAMA NAVYBLUE
2015年11月より相鉄では、デザインアッププロジェクト「YOKOHAMA NAVYBLUE(以下、ネイビーブルー)」がスタートしました。
このネイビーブルーの車両の役割の一つに「走る広告塔」があります。
乗降客数が世界一多いJR新宿駅に、ネイビーブルーの電車を入れることで、これまで知名度が圧倒的に低かった相鉄線を知ってもらい、最終的に相鉄線沿線に住んでいただくことが狙いです。
そのため12000系は、近年のJRや私鉄の通勤電車には無かった全面塗装が施され、「獅子口」をモチーフにしたかっこよく洗練されたデザインとなっています。
直通開始直後から現在まで、鉄道に興味が無い方からも、非常に多くの注目を集めることができています。
一方で11000系は、外装デザインから、このような広告塔の役割を担えるような車両ではありません。
私のような鉄道ファンであれば、違う車両に見えますが、鉄道に興味ない方からすれば11000系も中央線も山手線の電車も同じように目に映ります。
このままでは、相鉄線直通電車による広告塔の役割が十二分に果たせません。
簡単に言えば、2015年から始まった相鉄のプロジェクトの意地と役割を通すために、12000系を開発し新宿に乗り入れさせたと言っても過言では決してないでしょう。
まとめ JR直通線開業時期の遅れと総合的な判断
相鉄・JR直通線は、元々2015年に開業予定でしたが、工事の遅れに伴って二回も時期が変更され、最終的に、2019年11月30日に開業しました。
その遅れの間に、埼京線へのATACSの導入と、デザインアッププロジェクト「YOKOHAMA NAVYBLUE」が始まりました。
乗り入れ開始時期が定まった際に、必要本数、運行形態、改造コスト、ブランドイメージ向上の様々な要素を、総合的に判断した結果、新型車両12000系を開発し、JR渋谷・JR新宿に乗り入れさせたと言うのが、現在の相鉄・JR直通電車だと思います。
11000系も機器構成の違いを考慮しなくても、JR線に乗り入れさせることできなくはなかったけど、そのためにわざわざ改造する必要が無かったというのが、私の結論です。
おわりに
私が小学校4年生で、鉄道への関心がますます高まっている時期にデビューした地元の新型車両で、常に注目していました。
小学校の頃の新型車両11000系がJR線に乗り入れることが無かったのは、個人的には残念です。
ですが、現在の12000系がJR線に入り、広告塔として相鉄の知名度向上に貢献しているのは、地元ユーザーとして嬉しい限りです。
今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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掲載日 | コらム |
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